

「亀裂」

立派なスイカをもらってしまった。
抱えながら、ぽんぽんと音をさせる。小玉だがいいスイカだ。
しかし、夏も終わりで涼しくなってきているのに独り身ではこのサイズでも手に余る。
だから頂けたのかもしれないが。
せっかくだしと、近所のたぬき親子に声をかけ、スイカ割りを提案してみた。
親1匹子3匹の、群れに属さない家族だ。
ゴミを漁っているところに出会えば、挨拶をしてポケットのお菓子を与えるぐらいの間柄だった。
どうせこいつらスイカも食べたことなければスイカ割りもやったことないんだろ。
貧しい野良生活に彩りを与えてやろうじゃないの。
こちらとしては、施しを与えてやるつもりだったが、
「友達いないんだし…？付き合ってやるかし…」
まさかの手痛い反撃を受けた。
今すぐスイカの代わりにドタマをかち割ってやりたい衝動を抑えながら、
「ありがとう。助かるよ」
うまく笑えていた自信はなかった。


普通に割って食べてもおもしろくないし、さっきの態度にだんだん腹が立ってきたので、趣向を凝らすことにした。
スマホの動画で、スイカ割りの様子を見せる。
一般的なやり方で、楽しそうにやっているのが伝わったのか、ちびたぬき達は表情をキラキラさせていた。
親たぬきも、やさぐれていたへの字の口元を少し開けて、期待を覗かせている。
「さ、やり方はわかったかな？これ、割った後にみんなで一緒に食べような」
「わーいし！たのしみしー！」
「やるし！ちび、これ！ばーんてやつやりたいし！」
「ｷｭｷｭし！ｷｭｳｰし！」
大いにはしゃぐ子供達だが、親は子供の手前ちょっともじもじするに留めている。
よしよし、お膳立ては完了したな。



スイカと、事前に用意していた道具を抱え、たぬき親子を近所の公園の砂場に連れてくる。
夏休みも終わったので、昼食どきの公園は静かなものだった。
「本当はちび達にやらせてあげたいんだけど…棒が重くて持てないからな…お願いしていいか？」
「仕方ないし…ちび達、よーく見てるし…」
ふんす、と鼻を鳴らした親は高揚を隠しきれていない。
やらせてやる、なんて態度でいけばどうせ揉めるのであっちを立てた方がいいだろうと思って正解だった。

「いいか。あの砂場の真ん中にあるスイカ目がけていくんだぞ」
砂場にビニールシートを敷き、そこに置いたツナの空き缶の上にスイカを載せる。空き缶は転がらないためのものだ。
新聞紙を丸め、ビニールテープできつめに巻く。
これで準備は完了だ。

親たぬきに新聞紙で作った棒を持たせて、目隠しを巻く。
事前に説明したのはここまでだが、少し変更を加える。
砂場に穴を掘り、ちびたぬきを突っ込んで首だけ露出した状態で固定した。
「ｷｭ？なんでし？」
「これじゃうごけないし？」
「ｷｭｳｰし？」
「ここで“まま”を応援して、スイカまで導いてあげて欲しいんだ」
動画でも、クルクル回ってからフラフラする
アタッカーを誘導する様子を見せていたので、すんなり納得してくれた。
「わかったし！やるし！」
「まま〜こっちだし〜ぃ」
「ｷｭｷｭーし！」
クルクルと10回回転させて、よーいドン。
おぼつかない様子でふらふらと歩き出すたぬきは気づいていない。
スイカの手前に、3匹の頭が並んでいる。
ちび達もゴールに導くべく必死に声を上げるが、
「こっち！こっちだし！」
「そっちじゃないし！こっちだし！」
「ｷｭｳｳｰﾝし！」
右と左の概念もなく、1匹はまともに喋れないので全然ナビゲート出来ていない。
「え…？つまりどっちだし…？」
親たぬきは混乱しながらも、着実に歩みを進める。
「そう、そのまま…一歩だけ前へ…そこだ！」
一際でかい声でちびの声をかき消し、
俺の声を聞いて親たぬきが一撃を振り下ろす。
その先には、ちびたぬきの頭があった。
｢ｷﾞｭｴｯ！いたいし！まま、いたいしぃぃ！」
「？」
新聞紙とビニールテープで作ったとはいえ、しっかりと固く作ってあり、スイカを割れるほどの強度の棒だ。
たぬきといえど力一杯振り下ろせば、ちびたぬきはたまらないだろう。
何より精神的にきつい。
ちびたぬきは親に棒で殴られて涙目になりながら、身体が埋まっているためジタバタもできない。恐怖とストレスはすごいだろうな。

「ぎゃくたいだし！これ、ぎゃくたいだしぃ！」
へぇー、知ってるんだ。そう思いながら声をあげた別のちびたぬきの方に親が向いたので、そこ！振って！と声を出す。
｢ｸﾞｷｭｪ！いたいしーーー！われるしーー！」
「ｷｭ…し…ｷｭｷｭｯし…！」
一番小さなちびは元々うまく喋れないところに恐怖が合わさって、涙目で小刻みに震えている。
「うしろ！振り向いたらすぐ振って！」
ぼこん！一番いいのが入った！
｢ｷﾞｭｯ…ｷﾞｭﾜｧｧｧｱしぃぃ！」
「？？？」
親たぬきも、まさか自分の手で子供を殴っていると思うまい。一夏の思い出としては、少々過激かな。


その後もスイカに当たるまで、何度か誘導してやると、
コイツもしやわかってやってんのかってぐらい子供達をボコボコにしてから、やっとスイカにヒットした。
綺麗な亀裂が入り、スイカが割れる。
「あっ……ぐぅっし！？」
親たぬきとはと言えば、打ち下ろした際の反動で手首を痛めたようだった。
痛がっているうちに、ちびたぬき達のこめかみを両手で抱え、野菜を引き抜く要領で脱出させておく。
親たぬきの目隠しを外してやると、何故か砂まみれになった我が子が頭にでっかい瘤を作り、涙目で睨みつけてきていた。
「ｷﾞｭｳ…ずっとちがうっていったのに…」
「まま、ちびのはなしきいてないし…」
「ﾌﾞｩｩし…」
先程のスイカ以外の感触や子供達の様子から
自らが手を下したと理解し、親たぬきはモチモチと両手を合わせ、拝むように謝っている。
「ごめんし…でもそんなところにいると思わなかったし…何でし…？」
人間の声で誘導されたような…？と思い、人間の方を向くとスイカを食べ始めていた。
瑞々しくて、美味しそうだ。
人間は残ったスイカに何か振っている。確か塩を振ると甘みが増すらしいので、こちらに気を遣っているのだろうか。
「ほら機嫌なおすし…一緒にスイカ食べるし」
「ままとはイヤだし…！」
「プイだし！」
「ｷｭﾜｧし！」
ちび達はすっかり拗ねてしまい顔を背け、親の方を見ようともしない。
困った親も、早くスイカを食べたい故にか少しずつ苛立ち始めている。
ぎくしゃくした空気が流れていたその場に、そろりそろりと近づく影があった。

先ほどから俺は気づいていたが、様子を見ていた野良たぬきがヨダレを垂らし近寄ってきていた。
というかこのシナリオも込みでこのロケーションを選んでいる。
誰も止めないので、他の野良家族がどんどんスイカを持っていってしまう。
俺は特に止めない。自分の分はもう食べたから。
子供達に気を取られていた親たぬきが、ようやく咎め始めた。
「あっお前ら何だし！これはたぬき達のだし！」
「や、やめるしー！」
「まだひとつも食べてないしー！あーんしー！」
「ｷｭｳｳｳｳしー！」
この時ばかりは子供達も一緒になって抗議を始めるが、遅きに失している。
野生の世界では取ったもの勝ちなのはわかってるだろうに。


「ししし！もらっていくし！」
「食べ放題だし！」
「まぬけな人間とたぬきだし！」
かけらも残さず、丸ごと持っていく野良たぬき達を見送る。
一括りにされたのは我慢ならないな。
まあ、さっき食べた後に振ったのは塩じゃなくてたぬき用の下剤なんだけど。
一振りで一日中下痢が止まらなくなる。
きっと後であいつらはタヌスがﾀﾇﾌﾟｯｼｬｧｧて感じになるだろうな。脱水症状に気をつけて。


「お前らバカだし！いつまでもヘソ曲げてるからスイカ持っていかれちゃったし！」
結局、たぬき親子はスイカを一口も食べられなかった。
手首を痛めて、子供に歯向かわれて。
理不尽の原因を作ったのは実は俺だが、親たぬきはとっくに冷静さを欠いていた。
今度は、親たぬきが怒りの矛先を我が子に向け始める。
愛情をもって叱るのではなく、感情のままに怒鳴りつけていたのは俺でもわかった。
「ｷｭ…！？ちびたちのせいじゃ、ないしぃぃ！」
「ままなんてキライだしぃーーー！」
「ｷｭﾜｧｧｧし！」
「うるさいし！今日はご飯抜きだし！」
「それならこのヒトに食べさせてもらうし！」
「あっずるいし！お前らはダメだし！」
「ずるくないし！」
「ままのくせにかってにきめるなし！ｷﾞｭﾜ！」
「ｷｭｷｭし！ま、ま…は、だめ！し！」
すごい。一番小さいちびが初めて喋った言葉が親への否定かよ。思わず噴き出してしまった。
親たぬきは流石にショックだったのか、感情の整理がつかずにモチモチとした手を振りあげた。多分、脅しのつもりだったのだろうがーーー。
その様子を見て、先程の光景がフラッシュバックしたのかちび達が泣き叫ぶ。
「ぎゃくたいだしーーー！
「まわされるぅーしー！」
「や、だ、しーー！」
「あ…ちが…そんなつもりじゃ、ないし…！」
嗚呼、これが見たかった。
スイカも美味かったし、言うことないな。
適当に見終えたら帰ろっと。


喧嘩をしているうちに、スイカも食べ逃して。
手を痛めた親たぬきと、親に殴られてたんこぶを作ったちびたぬき。
あの割れたスイカと同じように、関係性に綺麗な亀裂が入った親子を見ながら、
吹き抜けていく乾いた風に、夏の終わりを感じていた。


オワリ